失うものは何もない 〈男子日本代表 松井 啓十郎選手〉

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 2011年以来、2年に1回開催される世界への切符が懸かったFIBA ASIA選手権の年に、松井 啓十郎選手は日本代表に選出されてきた。初めて臨んだ2011年大会。勝てば5位決定戦に進めるレバノン戦は、最後の場面でフリースローをもらった。残り時間はなく、2つ決めれば同点に追いつき、延長に持ち込める大事な場面。しかし2本とも外してしまい、78-80で敗れた。松井選手は泣き崩れ、仲間たちに抱えられながらベンチに戻った悔しい思い出は、その後の大きな糧になっている。続く2013年は一気にプレイタイムが減り、1試合平均約6分に留まる。銅メダルを獲得した2014年の第17回アジア競技大会時には招集されず、1年おいて2015年には3度目のFIBA ASIA選手権に出場。3位決定戦のイラン戦では18点を挙げ、FIBAオリンピック世界最終予選(以下OQT)への切符を勝ち獲り、2年連続日本代表に選ばれたのは今年が初めてである。

「3年前まではあまり試合に使われず、ただ日本代表に名を連ねているだけという感じでした。でも、昨年は勝負どころでもしっかりプレイタイムを与えていただき、自分としても結果を出すことができたと思っています。今年も日本代表に選ばれたことは本当にうれしいです」

 選手選考を兼ねた中国遠征「2016 Atlas Challenge」でも、ニュージーランド戦での15得点を筆頭に活躍を見せた。そのニュージーランド戦後にコメントは自信の表れでもある。
「自分の役割はベンチから出ていって流れを変えたり、良いタイミングでシュートを決めてチームを勢いづけること。今日は前半の入りが良くなかったので、あとから出ていって積極的に自分の仕事をしようとやった結果、前半に3本連続で3Pシュートが入りました」

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 長谷川 健志ヘッドコーチは「完璧な3Pシューターであり、流れを変えられる選手」と評価している。また、川淵 三郎元会長からも「3Pシュートを頼むぞ」と名指しで激励を受けていた。日本が世界で勝つためにも、3Pシュートが重要であることをあらためて中国遠征で実感している。
「負けてる試合は点数伸びなかったり、オフェンスのリズムが悪く攻め手がなくなっていたので、そういう時こそ3Pシュートがキーになります。最後のベラルーシ戦(● 60-69)はシューター陣が全然シュートを打てなかったです。目標として25本の3Pシュートを打つことを掲げているので、最低限その数を打てるようにしなければいけないですし、しっかり決めなければいけません」

 昨年のFIBA ASIA選手権は9月開催だった。強化合宿が始まった昨年の今頃、「オフ明けなのでシュート感覚がまだ戻っていない」と言う松井選手は、「9月まで時間があるので焦らず仕上げていく」と調整していった。しかし今年は、まもなく7月4日(月)にリオデジャネイロオリンピックの最後の切符を懸けた本番がやってくる。

「練習している感じではシュートタッチは悪くなく、中国でボールが変わってもすぐに対応できていました。あとはこれからのヨーロッパ遠征でどれだけ対応できるかどうか。環境や食生活が変わる中で、どれだけ自分がコントロールできるかが大事になってきます」
 6月8日(水)より本格始動となった第3次強化合宿の初日から、松井選手の3Pシュートは確率良く決めており、心配はなさそうだ。練習試合を行なったフランス戦での動きも悪くない。

 険しい道のりではあるが、オリンピックに手が届く位置にいる。これまでオリンピック予選となったFIBA ASIA選手権に向かう選手たちの目標は、「まずは目の前の試合に勝つこと」とか「4位以内に入って世界最終予選を目指す」などであり、明確なるオリンピックに対する目標を聞くことはなかった。しかし、先日の記者会見では多くの選手たちが「オリンピック出場を目指す」「切符を獲りに行く」と強い意思表明をしている。

「1試合に勝つことがすごい大変だということはみんなが分かってます。でも、その1試合を勝つために練習しているけど、そこがゴールではない。(オリンピック出場という)もっと大きなゴールを日本国民が期待しているわけですし、自分たちが言葉にしなければ行動もついていかないです」

 さらに、NBA中継にゲスト出演する松井選手らしい例え話で納得させてくれた。
「レブロン(ジェームス)が、『俺は故郷に帰って優勝する』と言ったからこそ優勝できたわけであり、そこへ向けた行動にも表れた証拠です」

 予選ラウンドでまず1勝を挙げ、なんとか決勝トーナメント進出につなげて、準決勝そして決勝を勝ち抜かねばならない。オリンピック出場には最低3勝が必要だ。

「日本は何も失うものはなく、ランキングは絶対的に一番下のチーム(48位の日本はOQT参加18チーム中最下位)。相手もそんな日本だから、もしかするとフワッと入ってくる可能性も考えられる。そこを突いていかなければならないし、最初から3Pシュートをバンバン入れて番狂わせを起こしたい。初戦に勝てば、その1勝が大きな自信になることだってあります。初戦にかける思いは本当に強いです」

 運命のラトビア戦は日本時間7月4日(月)深夜1時ティップオフ。OQTにおいて、アジア勢が8試合を戦いまだ1度も勝利を挙げたことがない。失うものはなにもないアカツキファイブは、後先考えることなくガムシャラに戦い、まずは歴史的1勝を目指す。

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松井 啓十郎

  • 1985年10月16日生
  • 188cm/85kg/シューティングガード
  • 東京都出身
  • モントローズ・クリスチャン高校~コロンビア大学~レラカムイ北海道~日立サンロッカーズ~トヨタ自動車アルバルク~アルバルク東京
  • 平成28年度男子日本代表選手 (FIBA男子オリンピック世界最終予選)
  • 平成27年度男子日本代表選手 (第28回FIBA ASIA男子バスケットボール選手権大会 出場)
  • 平成25年度男子日本代表選手 (第27回FIBA ASIA男子バスケットボール選手権大会 出場)
  • 平成23年度男子日本代表選手 (第26回FIBA ASIA男子バスケットボール選手権大会 出場)